登山届は義務なのか。条例で提出が必要な山域と、出さなかったときの罰則

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注意:自然環境・気象・野生動物の状況は地域差と個体差が大きく、本記事の内容はあらゆる状況での安全を保証するものではありません。入山前に必ず該当自治体・管理団体の最新情報を確認してください。

「登山届は出したほうがいい」とはよく言われますが、出さないと罰則がある山域があることは、あまり知られていません。

結論から書くと、登山届は全国一律の義務ではありません。 ただし条例で義務化している県があり、そのうち一部には過料や罰則の規定があります。しかも対象は「県内全域」ではなく、特定の山域と期間に限られます。

条例は改正されるので、入山前にご自身でも最新の記載を確認してください。

提出が義務の県と、その期限

対象 期限 罰則
岐阜県 北アルプス地区・焼岳・御嶽山・白山・乗鞍岳 記載なし 5万円以下の過料
群馬県 谷川岳の「危険地区」(冬山期間を除く) 10日前まで あり
富山県 剱岳および周辺山域(12月1日〜翌年5月15日) 20日前まで ページに記載なし
長野県 指定登山道 ページに記載なし ページに記載なし

「日本アルプスに行くなら義務がある」と覚えておくのが実際的です。

登山届の提出箱がある登山口

岐阜県は過料の金額まで決まっている

岐阜県の山岳遭難防止条例は、対象地区をこう定めています。

  • 北アルプス地区(焼岳を含む)
  • 活火山地区: 御嶽山、白山、乗鞍岳

罰則の記載は明確です。

登山届を提出せず登山した者、虚偽の登山届を提出して登山した者は、5万円以下の過料が科せられます

施行日は地区ごとに違います。北アルプス地区と焼岳が2016年12月1日、白山が2017年12月1日(罰則は2018年12月1日から)、乗鞍岳が2019年12月1日(罰則は2021年12月1日から)です。

提出方法は幅広く用意されています。登山届ポストへの投函のほか、持参、郵送、FAX、ホームページからのオンライン、メール。オンラインの届出先としては、岐阜県北アルプス山岳遭難対策協議会、日本山岳ガイド協会、ヤマップが挙げられています。

「オンラインで出したから紙は不要」で問題ありません。 逆に言えば、登山口のポストに入れる方法も引き続き有効です。

群馬県の谷川岳は「10日前まで」

群馬県警の案内によると、対象は谷川岳の「危険地区」で、冬山期間(12月1日〜翌年2月末日)を除く期間の登山が対象です。

提出方法にも具体的な指定があります。登山届2通を、登山しようとする10日前までに谷川岳登山指導センターへ提出。特定の山岳団体の会員で証明書の交付を受けている場合は、登山計画書1通で足ります。

出さないまま危険地区に登った場合や、知事が指定した登山禁止に違反した場合は、条例に基づく罰則の対象です。

10日前までという期限は、思い立って週末に行く、という計画の立て方だと間に合いません。ここが実務上いちばん引っかかる点です。

富山県の剱岳は「20日前まで」

富山県のページによると、対象は剱岳および周辺山域で、期間は12月1日から翌年5月15日まで。提出期限は登山する日の20日前までで、これが義務として定められています。

3週間近く前です。積雪期の剱岳に入る計画は、装備や体力の準備だけでなく、この期限から逆算する必要があります。提出はオンライン登山届「コンパス」または富山県電子申請サービスが指定されています。

罰則の記載はページ上にありませんが、条例に基づいて登山の中止や計画の変更を求められる場合があるとされています。

長野県は「指定登山道」が対象

長野県登山安全条例は、「遭難の発生のおそれが高いと認められる山岳の登山道」を指定登山道として定め、そこを通行する際に登山計画書の届出を求めています。

指定登山道は平成28年4月11日付けで指定され、令和7年3月10日付けで変更されています。対象の登山道は見直されることがあるため、行く予定の道が指定されているかは、その都度確認してください。

知らずに出さないとどうなるか

罰則の有無より先に、現実的な問題があります。

捜索の初動が遅れます。 登山届は、どのルートを、いつ、何人で歩く予定かを伝える書類です。これが無ければ、家族が異変に気づいて通報しても、どこを探せばよいか分かりません。捜索範囲が広がれば、それだけ発見は遅れます。

そして捜索費用は原則として本人・家族の負担です。民間ヘリや民間の救助隊が出れば、費用は積み上がります。登山届は、その規模を小さくするための材料でもあります。

提出方法は3つ

1. オンライン(推奨)

コンパス(日本山岳ガイド協会)YAMAP が、複数の県で正式な提出先として認められています。一度登録すれば計画の使い回しができ、下山通知まで一貫して扱えます。岐阜県は両方をオンライン届出先として挙げています。

2. 登山口のポスト

昔からある方法で、いまも有効です。ただし当日その場で書くことになるため、前もって出す義務がある山域(群馬10日前、富山20日前)では要件を満たしません。

3. 郵送・FAX・持参

岐阜県はこれらも認めています。ただし期限のある県では、到着日で判断されると考えて余裕を持ってください。

書く内容

条例の様式は県によって異なりますが、共通して求められるのは次の項目です。

  • 氏名、住所、連絡先、緊急連絡先
  • 入山日と下山予定日、下山予定時刻
  • 登る山と具体的なルート(登山口・経由地・下山口)
  • パーティの人数と各人の連絡先
  • 装備(テント、ツェルト、食料の日数、通信手段)
  • エスケープルート

ルートを具体的に書くことがいちばん重要です。「〇〇岳」だけでは捜索範囲は絞れません。

装備欄に書くもの

様式には装備を書く欄があります。何を挙げればよいかは、警察庁の令和7年における山岳遭難の概況等が目安になります。

挙げられているのは、その山の気候に合った服装、登山靴、ヘルメット、レインウェア、ツェルト、地図(アプリを含む)、コンパス、行動食。そして遭難時に助けを呼ぶための携帯電話・無線機・予備バッテリーです。

ヘルメットをどこで被るのかは登山用ヘルメットはどこで被るのかに、紙の地図の入手は地理院地図で登山の下調べをするにまとめました。

実際に持つものに落とすと、次の4つに整理できます。同じ内容を日帰りの分量で並べたものが日帰り登山の持ち物にあります。

照明と通信

  • ヘッドランプ(予備電池も)
  • 携帯電話
  • モバイルバッテリー

日没に間に合わなかったときと、救助を呼ぶときの装備です。同じ資料によると、遭難の76.3%は現場から通信手段で救助を要請しています。裏を返せば、残りは圏外か電池切れです。

ヘッドランプは乾電池式か充電式かで備え方が変わります。乾電池式は予備電池を持てば復帰できます。充電式はモバイルバッテリーと電力を共用できる反面、そのバッテリーが尽きると両方止まります。

軽さを優先するなら、小型のマルチランプがあります。予備の光源として1つ足しておく用途にも向きます。

乾電池式で防水のものは、予備電池を持つ前提の構成になります。

充電式は、行動中にモバイルバッテリーから足せます。ただし電源が1つにまとまるので、バッテリーの残量管理はより重要になります。

モバイルバッテリーは、表示された容量がそのまま使えるわけではありません。 電圧の変換と損失で、実際にスマホへ入るのは6〜7割です。10,000mAhのものでも、4,000mAhのスマホなら1.6回分ほどになります。

日帰りから1泊なら10,000mAhが目安です。山では重量がそのまま負担になるので、重さが明記されているものを選ぶと計算が立ちます。

連泊やパーティで共用するなら20,000mAh。ケーブルを忘れると容量は無意味になるので、本体にケーブルが入っているものは、その失敗を構造的に防げます。

明るさと点灯時間の関係、防水等級の差は登山用ヘッドランプの選び方に、容量の見積もり方と寒さで減る分は山でスマホの電池を切らさないにまとめました。

安全と救急

  • 救急セット(常備薬)
  • エマージェンシーシート(レスキューシート)

エマージェンシーシートは、動けなくなったときに体温を保つためのものです。軽くて小さいわりに、行動不能から救助までの時間を支えます。

救急セットは、絆創膏や消毒、テーピング、常備薬をまとめて持つためのものです。中身は自分で入れ替える前提で考えてください。持病の薬や、自分がよく起こす不調に合わせないと意味がありません。

エマージェンシーシートは軽くて小さく、ザックの隅に入れておけます。一度広げると畳み直しにくいので、中身を確認するのは家でやっておいてください。

ナビゲーション

  • 登山地図(紙)
  • コンパス
  • GPSアプリ

資料は紙とアプリの併用を求めています。どちらかではなく、両方でより正確に位置が分かるから、という理由です。

遭難の態様では道迷いが30.9%で最多です。紙の地図とコンパスは電池を使わないので、アプリの代わりではなく保険として持ちます。

コンパスは、地形図と組み合わせて初めて働きます。持つだけでは現在地は分かりません。 使い方を知らないまま持つより、事前に地図と合わせる練習をしておくほうが確実です。ベースプレート式は地図の上に置いて方位を測れます。

そのほか

  • ホイッスル
  • 飲料水
  • 行動食

ホイッスルは、声を出し続けられない状況で居場所を知らせるためのものです。

水は容器ごと持つことになります。広口のボトルは残量が見えて、洗いやすく、凍らせたものを入れられるのが利点です。飲み口が広いぶん、歩きながら飲むには向きません。行動中に口をつける前提なら、ハイドレーションや細口と使い分けてください。

行動食は、途中で足りなくなると判断力から先に落ちます。行動時間から逆算して、予定より少し多めに入れておいてください。

書いたものは実際に持つ

当たり前に見えますが、ここが装備欄の意味です。届に書いた装備は、捜索する側の判断材料になります。 ツェルトを持っていると書いてあれば、その晩を越えられる前提で動けます。書いて持たないと、その前提が崩れます。

雨具は登山用レインウェアの選び方に、ポールはトレッキングポールの選び方にまとめています。

まとめ

  • 登山届は全国一律の義務ではないが、条例で義務化している県がある
  • 岐阜県は5万円以下の過料。北アルプス・御嶽山・白山・乗鞍岳が対象
  • 群馬県の谷川岳「危険地区」は10日前まで、罰則あり
  • 富山県の剱岳周辺は12月1日〜5月15日で20日前まで
  • 長野県は指定登山道が対象。指定は見直される
  • 期限のある県では、登山口のポストでは間に合わない
  • 罰則より、捜索の初動と費用のほうが実害は大きい
  • 装備欄には照明・通信、救急、ナビゲーション、水と行動食を書く。書いたものは実際に持つ

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出典

画像クレジット

  • 登山届投入箱(アイキャッチ): 登山届投入箱.jpg) by Nori Norisa(CC BY 2.0)
  • 登山届の提出箱がある登山口(濁河温泉): Post of Mountaineering (Nigorigo-onsen).jpg) by Alpsdake(CC BY-SA 4.0)
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