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注意:自然環境・気象・野生動物の状況は地域差と個体差が大きく、本記事の内容はあらゆる状況での安全を保証するものではありません。入山前に必ず該当自治体・管理団体の最新情報を確認してください。
登山地図アプリを使う人が増えました。同時に、スマホの電池が切れると地図も連絡手段も同時に失うという状態が普通になりました。
この記事でわかること
- 遭難時に携帯電話がどれだけ使われているか
- モバイルバッテリーの容量表示が、そのまま使えない理由
- 何回分充電できるかの見積もり方
- 寒さで減る分をどう見込むか
- バッテリーで解決しないこと
76.3%が携帯電話で救助を要請している
警察庁の令和7年における山岳遭難の概況等(令和8年6月18日公表)に、通信手段の項目があります。
発生件数3,122件の76.3%が遭難現場から通信手段(携帯電話、無線機)を使用し、救助を要請している。
内訳では携帯電話が75.7%、無線機が0.6%です。裏を返せば、23.7%は使えていません。統計には注記があります。
通話エリア圏外、バッテリー切れ等は「使用なし」に含む。
圏外と電池切れが同じ箱に入っています。 どちらの割合かは、この統計からは分かりません。
警察庁も同じことを書いています。GPS付きの携帯電話は現在地を素早く伝えられる有効な手段だが、多くの山岳では通話エリアが限られ、バッテリーの残量にも注意が要る、という書き方です。
そして装備の列挙には、予備バッテリーがそのまま入っています。 連絡用通信機器として、携帯電話・無線機と並べて挙げられている、ということです。
遭難の3割は道迷い
なぜ地図アプリを動かし続ける必要があるのか。同じ資料の態様別の数字が答えになります。遭難者3,623人のうち、道迷いが30.9%、1,119人で最多です。
そして防止対策では、登山地図アプリと紙の地図の併用が勧められています。アプリだけでも紙だけでもなく、両方です。紙の地図とコンパスは電池を使いません。ここは分けて考えたほうが安全です。

容量表示はそのまま使えない
モバイルバッテリーの「10000mAh」という表示は、内部のセルの容量であって、スマホに入る電気の量ではありません。差が出る理由は2つあります。
1つ目は電圧の違いです。 セルは3.6〜3.7V、USB出力は5Vです。同じエネルギーを高い電圧に変換するので、mAhの数字は目減りします。3.7Vから5Vなら、およそ0.74倍です。
2つ目は変換の損失です。 電圧を変える回路で熱になる分があり、ケーブルでも少し失われます。
実際にスマホへ入る量は、表示の6〜7割を見込むのが現実的です。

何回分かを見積もる
スマホの電池が4,000mAh、モバイルバッテリーが10,000mAhの場合、単純に割ると2.5回です。しかし上の目減りを入れると、次のようになります。
“ 10,000mAh × 0.65 ÷ 4,000mAh ≒ 1.6回“
2回強のつもりが、1.5回程度。ここを勘違いすると、2泊目で足りなくなります。
| 表示容量 | 実際に取り出せる目安 | 4,000mAhのスマホで |
|---|---|---|
| 5,000mAh | 約3,250mAh | 0.8回 |
| 10,000mAh | 約6,500mAh | 1.6回 |
| 20,000mAh | 約13,000mAh | 3.2回 |
日帰りなら5,000mAh、1泊なら10,000mAh、2泊以上や地図アプリを常時動かすなら20,000mAhというのが、この計算から出てくる目安です。
容量別の選択肢
以下は上の3区分に沿った製品です。重量と対応端子は商品ページで確認してください。 山では重量がそのまま負担になるので、容量だけで決めないほうが失敗しません。
5,000mAh 前後(日帰り)
行動中に1回足せれば足りる、という前提の容量です。薄型で、ポケットに入れて体温で温めやすいという利点もあります。
Anker Nano Power Bank は MagSafe に対応したマグネット式です。ケーブルなしで貼り付けられるので、行動しながらの充電がしやすくなります。
ただしワイヤレス充電は有線より熱になる分が多く、取り出せる量が減ります。上の6〜7割という目安より、さらに目減りすると考えてください。急いで充電したい場面では有線のほうが確実です。
10,000mAh 前後(1泊、または地図アプリを常時動かす日帰り)
いちばん使いでのある容量帯です。4,000mAhのスマホなら約1.6回分にあたります。
エレコムの EC-C61MN は半固体電池を使ったモデルです。商品ページには軽量220g、2000回サイクル、機内持ち込み可と記載されています。重量が明示されている点は、装備を組むうえで扱いやすい情報です。
cheero の Pocheri は PD18W の10,000mAhです。
MagSafe を使いたい場合は、10,000mAh のマグネット式もあります。ワイヤレスの目減りについては5,000mAhの項と同じです。
20,000mAh 前後(2泊以上、複数人で使う)
4,000mAhのスマホなら約3.2回分。パーティで共有する場合や、ヘッドランプを USB 充電する場合はこの容量帯になります。
このクラスは重くなります。 1人の日帰りで持つと、多くの場面で過剰です。
Anker Zolo は USB-Cケーブルが本体に内蔵されています。この記事で「ケーブルを忘れると容量は無意味」と書きましたが、内蔵型はその失敗を構造的に防げます。
同じくケーブル内蔵で、出力の大きいモデルもあります。ノートPCまで充電する用途向けで、登山だけを考えるなら出力は過剰です。
CIO の SMARTCOBY TRIO も半固体電池です。3ポートあるので、スマホとヘッドランプを同時に充電できます。
寒さで減る分を見込む
リチウムイオン電池は低温で内部抵抗が上がり、取り出せる電気が減ります。これはバッテリー側にもスマホ側にも起きます。
冬季や高山では、残量表示が急に落ちるという形で現れます。実際には電気が消えたわけではなく、暖めると戻ることがあります。
対策は単純です。
- バッテリーとスマホを外気に晒さない。 行動中は内ポケットなど、体温が届く場所に入れる
- 就寝時はシュラフの中に入れる。 朝の起動で困りにくくなります
- 充電は暖かい場所で行う。 低温での充電は電池を傷めることがあります
同じ理由で、ヘッドランプも寒さで点灯時間が短くなります。電池を使う装備は、冬にまとめて弱くなると考えておくのが安全です。
消費を減らす設定
バッテリーを増やす前に、減らす側でできることがあります。
- 機内モードにする。 圏外では端末が基地局を探し続けて電池を消費します。地図アプリのGPSは機内モードでも動きます
- 画面の明るさを下げる。 消費のかなりの部分が画面です
- 地図データを事前にダウンロードする。 通信を待つ時間そのものが消費になります
- 不要なアプリの位置情報と通知を切る
機内モードとGPSは両立します。 位置は衛星から受け取るだけなので、通信は要りません。ただし救助要請には電波が必要なので、要請する場面では機内モードを解除してください。
ケーブルと端子
見落としやすい部分です。
- ケーブルを忘れると容量は無意味です。 バッテリーと端末の端子が合っているかを、パッキング時に一度差して確かめてください
- 端子は濡れに弱い。 雨のなかで充電しようとして、端子が濡れていると充電が始まらないことがあります。ジップ袋に入れておくと確実です
航空機で運ぶ場合
遠征で飛行機を使うなら、モバイルバッテリーは預け入れ手荷物に入れられません。機内持ち込みのみです。容量による制限もあります。
熊スプレーの運搬をまとめた記事で、航空・鉄道・宅配便のルールの調べ方に触れています。バッテリーについても、搭乗前に利用する航空会社のページで最新の条件を確認してください。
まとめ
- 遭難の76.3%は現場から通信手段で救助を要請している。携帯電話が75.7%
- 使えていない23.7%には、圏外と電池切れの両方が含まれる
- 態様別では道迷いが30.9%で最多。警察庁はアプリと紙の地図の併用を挙げている
- モバイルバッテリーの表示容量は、実際には6〜7割しか取り出せない
- 10,000mAhのバッテリーで、4,000mAhのスマホは約1.6回
- 寒さで取り出せる量が減る。体温の届く場所に入れる
- 機内モードでもGPSは動く。ただし救助要請時は解除する
- 圏外は電池では解決しない。紙の地図とコンパスを併用する
通報したあとの費用が誰の負担になるかは山岳保険は要るのかにまとめました。装備の考え方としてヘッドランプの選び方とレインウェアの選び方も用意しています。入山前の手続きは登山届の出し方にまとめました。
出典
画像クレジット
Wikimedia Commons と Flickr から。
- ガスに包まれた杉林(アイキャッチ): Fog @ Ikusabata / Mount Takamizu / Mitake hike by \_\(CC BY 2.0)
- スマートフォンの地図で現在地を確認する: Olkhon Island, GPS navigation, Smartphone, Lake Baikal, Russia by Vyacheslav Argenberg(CC BY 4.0)
- モバイルバッテリーでスマートフォンを充電する: Charging a smartphone with a USB power bank by Mk2010(CC BY-SA 4.0)