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注意:自然環境・気象・野生動物の状況は地域差と個体差が大きく、本記事の内容はあらゆる状況での安全を保証するものではありません。入山前に必ず該当自治体・管理団体の最新情報を確認してください。
丹沢に通っている人なら、下山後にバス停で靴下が赤くなっているのを見つけた経験があるかもしれません。ヤマビルに吸血されても痛みをほとんど感じないので、その場では気づきません。
対策の要点は1つです。忌避剤は肌ではなく靴に塗ります。 蚊よけと同じつもりで腕に吹いても、ヤマビルにはほとんど意味がありません。理由は後で書きます。
医学的な判断が必要な場面には踏み込まず、入山前にできることと、吸血されていたときの手順に絞ります。
この記事でわかること
- 丹沢のどのあたりに多いか、どの時期に出るか
- 忌避剤を塗る場所(肌ではありません)
- 塩が効く理由と、効かなくなる条件
- 吸血されていたときの外し方
- ヤマビル対策で防ぎきれない範囲
丹沢の主要な山は、ほぼ入っている
神奈川県はヤマビルにご注意を!で、県内では丹沢山地東部を中心に確認されている、としています。対策マニュアルには生息域の地図が載っていて、そこに置かれている山名が蛭ヶ岳、丹沢山、檜洞丸、鍋割山、大山、仏果山、鐘ヶ嶽、焼山、大室山です。行政区域では清川村、厚木市、伊勢原市、秦野市、愛川町、松田町、山北町の一部にあたります。
要するに、丹沢の主要な山はほぼ全部だと思ったほうが早い状況です。
時期と場所
活動期は4月から11月、密度が高くなるのが6月から9月です。そして雨の最中と雨上がりに活発になります。
出る場所は、尾根よりも沢筋や窪地の湿ったところ、そして獣道が交差するあたりです。丹沢は沢沿いのルートが多く、梅雨から夏に歩く機会も多いので、条件がそのまま重なります。「丹沢に行くならヒルがいる」と言われるのは、山にたまたま多いというより、歩く時期と場所が生息条件と一致しているからです。

休憩の数分で足りてしまう
ヤマビルは体の表面と前吸盤の近くにセンサーを持っていて、体温と呼気の炭酸ガスを感じ取ります。県のマニュアルによれば、約2mの範囲に人が入ると、振動や落ち葉の動き、においも合わせて感知して寄ってきます。
移動速度は分速1m。数字だけ見ると遅いようですが、2m先から寄ってくるのに2分かかりません。腰を下ろして行動食を食べている数分間は、十分な時間です。
そして、吸血されても気づけない理由がはっきり書かれています。
吸血しながらモルヒネ様の物質を出しているので、痛みはほとんど感じません。
痛みで気づくことは期待できません。定期的に足元を見る以外に、検知する方法がないということです。
忌避剤は肌ではなく靴に塗る
ここがこの記事でいちばん実用的なところです。蚊よけとヤマビル用では、効き方の仕組みが違います。
蚊よけは有効成分が蒸散して、その範囲に虫を近づけません。ヤマビルの忌避剤は触れたヒルに直接作用します。這い上がろうとしたヒルが薬剤に接触して、そこで上がれなくなる。だから、肌に塗っても通り道になっていなければ意味がありません。
忌避剤は、皮膚に塗るのではなく靴やズボンなどの衣類に塗布して使用するもので、靴や靴下、ズボンの裾、手袋、ベストなどに付けておくとよいでしょう。
塗り方も決まっています。容器をよく振ってから、5〜10cmの帯状にむらなく吹き、5分ほど置いて乾かします。登山口に着いてから塗るなら、この5分を歩き出す前に見込んでおいてください。濡れたまま歩き出すと、落ち葉や土が付いて効果が薄れます。
隙間をつくらない
県のマニュアルが挙げているのは、長靴か地下足袋を履く、網目の細かい長い靴下を履く、ズボンの裾を靴下の中に入れる、の3つです。登山靴は長靴ではありませんが、裾を靴下に入れる、ゲイターで塞ぐという考え方は同じです。
網目の細かさを言っているのには理由があります。ふ化直後の幼体は0.5cmしかなく、爪楊枝のような太さです。粗い網目はすり抜けますし、目で見つけるのも困難だと書かれています。厚手の靴下やゲイターを勧めるのは、この幼体を通さないためです。
行動中は、30分から1時間に1度は足元を見ます。背中や頭は自分では見えないので、複数人なら互いに確認します。腰を下ろす前に足踏みをして、周囲にいないか確かめる。地面に膝や手を付かない。どれも、寄ってこられる前提での動き方です。
塩とディート
栃木県のヤマビル対策マニュアルは、専用の忌避剤のほかに20%の食塩水とディート30%の虫よけスプレーにも効果があるとしています。20%の食塩水は、水100mLに食塩25gを溶かすとおよそこの濃度です。
ただし塩には弱点があります。神奈川県のマニュアルは、露や雨で薄まって効果が落ちること、使用後に洗い流さないと靴の金属部が錆びることを書いています。ヤマビルが最も出るのは雨上がりなので、効果が落ちる条件と出る条件が重なります。塩だけで通そうとすると、いちばん必要なときに弱くなります。
木酢液や酢にも忌避効果はありますが、においと皮膚への刺激があるとされています。
ディート30%を使う場合
マダニ対策と同じ成分なので、丹沢で両方を相手にするなら一本で足ります。
ただしディート30%は12才未満は使用しないという制限がある区分です。アース製薬のサラテクト リッチリッチ30は、製品情報によると200mL中にディート60g(30%)を含み、この制限も同じページに書かれています。
ヤマビルには衣類に塗るので、ミスト式のほうが靴やゲイターに帯状で置きやすくなります。
広い面に手早く吹きたいならエアゾール式です。
なお、ディートは樹脂や化学繊維を傷めることがあります。ゲイターやレインパンツに直接吹くので、目立たない場所で試してからのほうが安全です。
吸血されていたら
マダニとは正反対です。 ここを混同すると危ないので、先に書きます。
ヤマビルを取り除く。(吸血中でも歯は皮膚に食い込んでいない。)
マダニは口器が皮膚に刺さっているので無理に引き抜きません。ヤマビルは食い込んでいないので、吸盤を剥がすように爪でこそげて構いません。塩や消毒用エタノールをかけると外れます。

外したあとは、傷口を指でつまんで唾液の成分を搾り出し、消毒用エタノールか水で洗います。そのほうが治りが早いとされています。
血が止まりにくいのは、ヒルジンという成分が入っているためです。絆創膏を貼って血を抑えますが、2〜3時間ごとに貼りかえるという指定が付いています。痒みには抗ヒスタミン剤の軟膏が挙げられています。症状が続いて発疹や熱が治まらない場合は、皮膚科で相談してください。
外したヤマビルは、そのままにしません。吸血した個体は産卵して増えます。そして靴で踏みつぶすだけでは死にません。塩やエタノールを使ってください。
まとめ
- 神奈川県内では丹沢山地東部が中心。蛭ヶ岳、丹沢山、檜洞丸、鍋割山、大山などが生息域の地図に載っている
- 活動期は4〜11月、密度が高いのは6〜9月。雨中と雨後に活発
- 出るのは尾根より沢筋や窪地、獣道が交差する湿った場所
- 約2mで気づかれ、分速1mで寄ってくる。休憩の数分で足りてしまう
- 忌避剤は肌ではなく靴やズボンの裾に、5〜10cmの帯状で塗り、5分乾かす
- 20%食塩水とディート30%が有効。ただし塩は雨で薄まり、金具が錆びる
- 吸血されていたら爪でこそげてよい(歯は食い込んでいない)。マダニとは逆
- 外した個体は踏んでも死なない。塩かエタノールを使う
同じ「刺す・咬む」相手への備えとしてマダニ対策とスズメバチ対策も用意しています。入山前の手続きは登山届の出し方にまとめました。