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注意:自然環境・気象・野生動物の状況は地域差と個体差が大きく、本記事の内容はあらゆる状況での安全を保証するものではありません。入山前に必ず該当自治体・管理団体の最新情報を確認してください。
稜線で立ち止まり、防寒着を羽織る。だけど汗や小雨でうっすら濡れていて、思ったほど暖かくない。
ダウンと化繊インサレーション、どちらの防寒着を選ぶかは見た目や厚みではなく、濡れに対する強さと、重さ・収納性のどちらを優先するかで決まります。
この記事でわかること
- ダウンと化繊インサレーションが、それぞれ何の仕組みで暖かくなるか
- 濡れたときに保温力がどれだけ落ちるか(メーカー公式の試験データ)
- 重さと収納性で、どちらが有利になりやすいか
- 乾きやすさの違い
- 行動中に着るか、停滞・休憩用にするかの選び方
選ぶ基準を先に
- 乾いた厳冬期や、停滞中心で濡らさない前提なら ダウン。軽さと収納性で有利です
- 汗をかきながら行動する、雨や雪で濡れやすい場面では 化繊インサレーション。濡れても保温力の低下が小さく、乾きも早い構造です
- 迷ったら、行動中に着るか、休憩・停滞だけに使うかで考えます。行動中はどのみち汗で濡れるので化繊側が無難。停滞専用で濡らさない運用ができるなら、ダウンの軽さが活きます
ダウンが暖かい理由
ダウンは、ガチョウやアヒルなど水鳥の、主に胸の周りに生える羽毛です。軽い割に強い弾性を持ち、暖かい空気を蓄える天然のインサレーションだと、THE NORTH FACE(ゴールドウイン)は説明しています。
保温力の目安としてよく出てくるのがフィルパワーです。THE NORTH FACEは「900フィルパワーとは、1オンス(28.4g)当たりの羽毛が900立方インチの体積にふくらむことを表し、この数値が大きいほど上質なダウンとされる」としています。
ふくらむ体積が大きいほど、同じ重さでも多くの空気を含められるという理屈です。ただし、フィルパワーの数値と実際の保温力がどんな計算式で対応するかは、公式ページには示されていません。数値は「上質さの目安」として見ておくのが実質的です。

化繊インサレーションが暖かい理由
化繊インサレーションは、ポリエステルなどの化学繊維を綿状やシート状に加工した詰め物です。ブランドごとに独自の構造を持っています。
モンベルの化繊綿「エクセロフト」は、数種類の太さの異なる繊維が複雑に絡み合い、保温力の元となる暖かい空気をたっぷり蓄える仕組みだと説明しています。
一方、ファイントラックの保温材「ファインポリゴン」は、綿状の一般的な化繊中綿とは違う、凹凸のあるシート状の素材です。同じ「化繊インサレーション」でも、綿状のものとシート状のものでは構造が異なり、中身はブランドごとに別物と考えたほうが実態に近いです。
レイヤリングの中では、こうした防寒着は行動中のミドルレイヤーより保温力の高い、停滞・休憩用の追加レイヤーに当たります。3層それぞれの役割はレイヤリングの考え方に整理しました。
濡れたときの保温力の違い
ここが、ダウンと化繊インサレーションを分ける最大の軸です。
マムットは「ダウンが水分を吸収すると、その機能、つまり保温性、軽さなどが大きく低下することが知られています」と説明しています。
ファイントラックが行った含水率の試験では、ファインポリゴンの含水率は24%程度だったのに対し、高品質ダウンは60%、一般的な化繊綿は40%でした。濡れを含みやすいのは、化繊綿よりもダウンのほうです。

保温性への影響も同じ試験で示されています。湿った状態での保温性維持率は、ファインポリゴンが乾燥時の70%を保ったのに対し、ほかの中綿素材(化繊綿)のジャケットはほとんどが50%以下まで低下、高品質ダウンは乾燥時の36%まで落ち込みました。
同じ条件で比べると、化繊中綿(50%以下までの低下)のほうが、高品質ダウン(36%まで低下)より、濡れたときの保温力の落ち方が小さいということです。
ダウン側にも対策はあります。マムットの「ドライ・ダウン」は、750フィルパワー以上のグース・ダックダウンを100%使用し化繊を混ぜず、ダウン自体に撥水加工を施すか、表地を防水加工・シームテープで補強することで水分による機能低下を抑える、という条件で作られています。「ダウンは濡れに弱い」で終わる話ではなく、加工で弱点を補う製品があるということです。
重さと収納性の違い
服の詰め物として、ダウンほど小さく圧縮できる素材はほかにないと、THE NORTH FACEは説明しています。空気を含んだダウンの粒は、袋に押し込むとかなり小さくまとまります。化繊インサレーションは繊維やシートの構造を保つ必要があるぶん、同じ保温力でも重く、畳んだときにかさが残りやすい、というのが各ブランドの説明から読み取れる一般的な傾向です。停滞用の1枚をザックの隙間に入れておきたいなら、ここはダウン側が有利になりやすい場面です。
ただし、化繊インサレーション同士(モンベルのエクセロフト、ファイントラックのファインポリゴン、各ブランド独自の化繊綿など)は構造がそれぞれ違い、重さや収納性を横並びで比べられる公式の共通試験値は見当たりませんでした。化繊インサレーションのジャケットを比べるときは、ブランドをまたいだ数値の比較ではなく、公式ページに載っている個々の製品の重量・収納サイズを確認してください。
乾きやすさの違い
濡れたあとの回復力にも差があります。ファイントラックは、シート状のファインポリゴンについて「速乾性に優れ、濡れても短時間で本来の保温力を回復します」としています。
モンベルのエクセロフトも、保水しないポリエステル繊維の性質を生かして、行動時に汗や雨で濡れてもロフト(かさ高さ)を損なわず速乾性を実現すると説明しています。
ダウンは一度濡れると、乾くまでの時間が長く、その間は保温力が落ちたままになります。テント泊や連日の行動で、乾かす時間を確保しにくい場面ほど、化繊側の速乾性で差が出ます。
どちらを選ぶか
ここまでの内容を、使う場面に当てはめると次のようになります。
- 行動中も着たまま動く保温着 … 汗や雨で濡れる前提になるので、化繊インサレーションが無難です
- 停滞・休憩・テント内だけで着る防寒着 … 濡らさずに使えるなら、ダウンの軽さと収納性が活きます
- 雨や雪の多い時期、長期の縦走 … 乾かす時間を確保しにくいので、化繊側の速乾性が安心材料になります
- 乾いた厳冬期、荷物を極力軽くしたい場面 … ダウンの軽さと収納性が有利です。濡らさない行動(結露や雪を払う、濡れたウェアと分けて収納する)が前提になります
THE NORTH FACEやマムットは、ダウンと化繊インサレーションの両方のジャケットを展開しているブランドです。マーモットはダウンジャケットの品ぞろえがあり、ファイントラックは化繊側(ファインポリゴン)に強みを持つブランドとして知られています。用途を決めてから、仕組みの合うモデルを探すと選びやすくなります。
濡らさない停滞用にダウンを選ぶなら、750フィルパワー級のグース・ダックダウンを使うマムットのフーデッドジャケットのような、保温力と圧縮性を両立させたモデルが候補になります。
行動中も着たまま動く化繊側なら、本文で取り上げたファインポリゴンを使うファイントラックの「ポリゴンULジャケット」が候補です。前に見た試験で、濡れても乾燥時の70%の保温性を保ったシート状の保温材です。
THE NORTH FACEの「ベントリックスジャケット」も化繊側の選択肢です。中わたはポリエステル100%の化繊綿「VENTRIX ECO」で、ダウンより濡れを気にせず使えます。

防寒着とセットで使う、風だけを防ぐウインドシェルは別の装備です。晴れた稜線での使い分けはウインドシェルは何のために持つのかにまとめました。
まとめ
- ダウンは水鳥の羽毛、化繊インサレーションは化学繊維を綿状・シート状に加工したもの。仕組みが違う
- 濡れたときの保温性維持率は、化繊中綿のほうがダウンより低下が小さい(公式試験で50%以下 対 36%)
- ダウンは圧縮性に優れ、軽くて小さくまとまる。化繊は同じ保温力なら重くかさが大きくなりやすい
- 化繊は速乾性に優れる。ダウンは一度濡れると乾くまで時間がかかる
- 撥水加工などを組み合わせた「ドライ・ダウン」のような、弱点を補う製品もある
- 行動中に着るか、濡らさない停滞用かで選ぶのが実質的な基準
雨そのものへの備えとしてのレインウェアの選び方は、登山用レインウェアの選び方に整理しています。
出典
画像クレジット
Adobe Stock、Flickr、Wikimedia Commons から。
- 雪の展望地でダウンジャケットを着た登山者(アイキャッチ): Adobe Stock #416078377
- 山頂でダウンジャケットを着て海を見渡す登山者: Adobe Stock #558609134
- 霧に包まれた稜線の斜面: Approaching fog by Josh Lewis(CC BY-SA 3.0)
- 雲が流れる稜線の尾根: Above the clouds, Eyjafjallajokull pass, Iceland by Dimitry B(CC BY 2.0)


