山でのスズメバチ対策。攻撃の4段階と、刺されたときにやること

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注意:自然環境・気象・野生動物の状況は地域差と個体差が大きく、本記事の内容はあらゆる状況での安全を保証するものではありません。入山前に必ず該当自治体・管理団体の最新情報を確認してください。

クマの対策は熱心にするのに、ハチは軽く見られがちです。ただ、林野庁東北森林管理局の資料はこう書き出しています。

刺傷災害の急増する秋。年間死亡者数はマムシよりはるかに多い、山仕事では要注意の危険生物

マムシよりはるかに多い。 山で最も人が亡くなっている生き物は、クマでもマムシでもなくハチです。

医学的な判断が必要な場面には踏み込まず、入山前に準備できることと、刺されたあとの手順に絞ります。

この記事でわかること

  • 危険な時期と、秋に攻撃的になる理由
  • 刺されないための服装と行動
  • 警戒から攻撃までの4段階と、その場での判断
  • 追われる距離の目安
  • 刺されたあとにやること、やっても意味がないこと

秋に攻撃的になるのには理由がある

危険な時期は7月から10月、特に秋だと鳥取労働局の蜂刺され災害を防ごうは書いています。

では、なぜ秋なのか。林野庁東北森林管理局のミニコラムが、その事情を説明しています。

巣が大きくなる秋には翌年の女王候補を育てるが、この頃には獲物となる虫の数も好物の樹液も減り、また冬眠前のクマ等天敵の襲撃が増える時期でもあるためか、警戒範囲も広がり、より攻撃的になる。

守るものが増え、餌が減り、天敵が来る。 三重苦の季節です。だから同じ距離まで近づいても、夏と秋では反応が違います。

そして秋は、登山者がいちばん多い季節でもあります。

軒下に作られたキイロスズメバチの巣

黒い服と、匂いのするもの

労働局の資料は防止対策を9項目挙げています。服装について具体的に名前が出ているのは、黒地の着衣と、香水や化粧品など匂いのするものの2つです。

登山では黒いキャップ、黒いザック、黒いパンツはごく普通です。全部やめる必要はありませんが、ハチのいる時期に藪の近くを歩くなら、帽子だけでも色を変える価値はあります。日焼け止めや整髪料の匂いも同じ扱いです。

行動面は単純で、巣に近寄らない、振動などの刺激を与えない、近づいてきたら速やかに遠ざかる。林野庁の蜂刺され災害を防ごうも「先ず刺されないことが基本です」としています。

問題は、登山道では巣が見えないことです。オオスズメバチやクロスズメバチは土の中、ヒメやコガタは枝や茂みと、種によって営巣場所が違います。土中の巣は、踏み込んだ瞬間に振動が伝わる形で始まります。目視で避けられる前提に立たないほうが安全です。

攻撃には4段階ある

ここがこの記事でいちばん実用的なところです。林野庁の資料は、攻撃までの段階をこう分けています。

  1. 警戒 — 巣の出入口や表面にいる蜂が、近づいた人や動物を注視する
  2. 威嚇 — 高い羽音を発して、上下、左右をまとわりつくように飛び回る
  3. 間接的刺激への攻撃 — 巣内から多くの蜂が飛び出して攻撃する
  4. 直接的刺激への攻撃 — 威嚇なしにいきなり飛びかかり、すぐに刺す

判断すべきは2段階目です。 高い羽音でまとわりつかれたら、それは偶然ではなく威嚇です。ここで静かに後退すれば、3段階目に進まずに済む可能性があります。

やってはいけないのは、手で払うことと、走って逃げること。どちらも大きな動きと振動を作ります。振動と大きな動作が、そのまま刺激になります。

刺されたら、まず離れる

追いかけてくる距離は種によって違い、労働局の資料では概ね10mから50m程度とされています。

そして、その場で手当てを始めてはいけない理由があります。1匹に刺されると、興奮物質を含む毒液が空中にまき散らされます。仲間を呼ぶ信号になるので、留まっていると多数の攻撃を受けることになります。

1回刺されたら、まず巣から離れる。手当てはそのあと。 順番を間違えると被害が増えます。

離れてからの手順は、流水でよく洗い流し、手で毒液を絞り出すこと。水で洗うのは毒を薄める効果と、傷口を冷やす効果の両方が期待できるためです。そのうえで薬を塗ります。

患部に虫刺されの薬(抗ヒスタミン軟膏)を塗ります。アンモニアは全く効果がありません。

「おしっこをかける」は、資料の記述と真っ向から反します。 効果がないだけでなく、傷口を汚すぶん悪くなります。

処置を終えたら、できるだけ速やかに医師の診察を受けてください。意識がもうろうとする、呼吸が苦しい、血圧が下がるといった症状があれば、すぐに119番です。

アナフィラキシーは数分で来る

症状には段階があります。一般的なのは激しい痛みと赤い腫れ。軽症で蕁麻疹、だるさ、息苦しさ。中等症で喉の詰まった感じ、胸苦しさ、口の渇き、腹痛、下痢、嘔吐、頭痛、めまい。

アナフィラキシーショックは、アレルギー反応が数分から30分以内という短い時間で起き、呼吸困難や血圧低下といった生死に関わる症状を伴うものと定義されています。

山の中で起きたとき、救急車が着くまでにこの時間は経ちます。だから事前の備えが意味を持ちます。

林野庁の資料は、重篤なアレルギー反応を起こすおそれのある林業従事者について、自動注射器の携行を挙げています。ただしこれは登録医師の処方が必要です。過去に刺されて全身症状が出たことがある人は、山に行く前に医療機関で相談してください。当日どうにかできる類のものではありません。

備えとして売られているもの

ここから先は製品の紹介です。今回参照した公的資料が触れている範囲と、触れていない範囲を分けて書きます。 効果が確認できていないものを、確認できているように書くつもりはありません。

殺虫スプレー

労働局の資料は防止対策の6項目目に「蜂の殺虫剤スプレーを携行すること」を挙げています。林野庁の資料も同様です。ただし、これらは主に作業者が巣に対処する場面を想定した記述で、行動中に襲われた状況で必ず使える前提ではありません。使える状況が限られることを踏まえたうえで、携行する選択肢になります。

ポイズンリムーバー

今回参照した3つの資料に、ポイズンリムーバーの記載はありません。 労働局の資料が書いているのは「傷口を流水でよく洗い流し、手で毒液を絞り出すようにします」までです。

蜂毒に対する吸引器の効果について、公的な裏づけをこの記事では確認できていません。持つかどうかは各自の判断になります。持っていても、受診を後回しにする理由にはなりません。

オニヤンマの模型

スズメバチの天敵とされるオニヤンマを模した製品が、近年よく売られています。ただし今回参照した公的資料に、模型で蜂を遠ざけられるという記載はありません。

効果を確認できていない以上、これを着けているから大丈夫とは考えないでください。 資料が挙げているのは、黒い服と匂いを避けること、巣に近寄らないこと、羽音でまとわりつかれたら静かに後退することです。

まとめ

  • 危険な時期は7月〜10月。秋は巣を守るため警戒範囲が広がり、より攻撃的になる
  • 年間死亡者数はマムシよりはるかに多い
  • 黒地の着衣と匂いのするものを避ける
  • 攻撃には4段階ある。高い羽音でまとわりつかれた時点が威嚇。静かに後退する
  • 追われる距離は概ね10〜50m。刺されたらまず巣から離れる
  • 流水で洗って毒を絞り出す。アンモニアは効果がない。そのうえで受診
  • アナフィラキシーは数分〜30分以内に起きる。心当たりのある人は事前に医療機関へ
  • 殺虫スプレーは資料が携行を挙げている。ポイズンリムーバーとオニヤンマの模型は、資料に裏づけがない

同じ「刺す・咬む」相手への備えとしてマダニ対策丹沢のヤマビル対策も用意しています。入山前の手続きについては登山届の出し方にまとめました。

出典

画像クレジット

  • オオスズメバチ(アイキャッチ): Vespa mandarinia japonica by Michael J. Trout(CC BY-SA 4.0)
  • 軒下に作られたキイロスズメバチの巣: Vespa simillima xanthoptera nest by Togabi(CC BY-SA 4.0)
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